モハメドは名前のとおり、イスラム教徒だ。

彼らの食事には、イスラム法で決まりがある。

「ハラル」は、食べてもよいもの。

「ハラム」は、食べてはいけないもの。

 

いろいろな決まりごとがあるので、敬虔なイスラム教徒はとくに食事に気を使う。外食は何が入っているかわからないし、とくに肉についてはみな敏感だ。

そのせいか留学するイスラム教徒は、自炊する学生が多い。

モハメドもその例に漏れず、毎日自炊していた。

国費で留学しているので贅沢もできない。

 

毎日毎日、私の知る限りモハメドはスパゲティを食べていた。

ゆでたスパゲティを油で炒める。

具はスライスしたジャガイモのみ。

これしか見たことがない。

 

そしてイスラム教徒は食べ物を分け合うこともよくする。

自分が貧しくても周りを誘うのだ。

というわけで、顔を合わせるたびにモハメドは笑顔で少しばかり食べさせてくれるのだが……正直言ってひどかった。

スパゲティは芯が残っていて、しかも油でハンパに外側だけぶよぶよ。

ジャガイモはいつも生っぽくて油でギトギト。

味付けは塩だけ。

明らかにいままで料理をしたことがない人間の作るものだった。

同様に勧められて食べた寮の連中も同じ意見だったようで、「モハメドのスパゲティ」はある意味で名物になった。

 

私は自炊したり食堂で食べたりで、しばらくその名物に出くわさなかったのだが、数か月経ったある日、同じ寮の学生がつぶやいた。

 

「人間って大したもんだわ」

 

なんのことかと聞けば、モハメドのスパゲティだ。

モハメドはやはり来る日も来る日も朝昼晩とスパゲティを同じ調理法で食べていたらしいのだが、それが徐々に進化しているのだという。

 

「最近のモハメド・スパゲティはイケる」

 

またまた……。

油と炭水化物と塩なのだから、きちんと調理すれば食べれなくはないのは分かる。

が、「イケる」とはどういうことか。

お互いの部屋の家具から筆記具、マグカップまですべて接着剤で付けたり、寮のお湯タンクにラズベリージュースをぶち込んでシャワールームから悲鳴が上がるようなイタズラをしているバカな連中のことだ、そういうノリで言っている可能性もある。

 

気になっていたところで、ちょうどモハメドのスパゲティを食べる機会が訪れた。

 

「ほら、一緒に食べないか」

 

ラクダのような長い睫毛をしたモハメドの笑顔も、スパゲティの見た目も変わらない。

やはり大げさな話だったかと思いながらいただいたが、食べて驚いた。

 

スパゲティはアルデンテで、しかも半分は油で揚げられてかた焼そばのように香ばしい。

ジャガイモも火が通るよう薄くスライスされていて、塩味が絶妙……!

これが私の知っているパスタ料理かと言われれば何か違うものなのだが、確かに美味い。

進化といっても、「モハメドのスパゲティ」は完全に独自進化していたのだ。

 

拙いながらも毎日毎日ただひたすらに続けているだけでも、人はなにかに気づいて工夫する。さらにより良く。ときに過激に、ときに洗練されて。

周囲がその変化に気付いたとき、すでにそれは「オリジナル」と言える域になっているのを、オタクなら何度もみたことがあるはずだ。

ありふれたスパゲティですらそんな可能性があるのだから。

好きなものならば、なおさら。


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